認知と養子縁組何が違うの?

認知と養子縁組

「認知」という手続を聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが、どのような手続かご存じでしょうか。
簡単に言うと、法律上、子供の父親を確定させる手続です。
現状、法律上の婚姻関係にある男女の間に生まれた子供(これを「嫡出子」といいます。)については戸籍上、何もせずとも父子関係が発生することになっています。しかし反対に、法律上の婚姻関係がない男女の間に生まれた子(これを「非嫡出子」といいます。)は、そのままの状態では戸籍上お父さんがいない子供になります。

このように産まれるときに、法律上の父親が確定していない子供に対して父親を確定させる手続が「認知」です。つまり「認知」とは不倫相手との間に子どもができた、あるいは入籍前に子どもができたという場合に、法律上、お子さんのお父さんを確定させるための手続です。
では、養子縁組と何が異なるのでしょうか。
養子縁組というと再婚相手とその連れ子との間で結ばれる手続、つまり元来血縁関係がない者の間で結ばれるものというイメージが強いかと思います。しかし、法律は血縁関係にある者同士の養子縁組も決して禁じていないのです。
となると、認知と養子縁組の違いはどこにあるのでしょうか。

今回は、法律上の婚姻関係がない男女の間に産まれた子供が産まれたとき、認知をした方がいいのか、それとも養子縁組をした方がいいのか、2つの手続はいったい何が違うのか…混乱されている方も多くいらっしゃると思うので、認知と養子縁組の相違点について解説します。

非嫡出子とは??

 非嫡出子とは、上記のとおり法律上の婚姻関係にない男女の間に産まれた子供のことをいいます。この説明を文字通り解釈すると、産まれたときに父・母に当たる二人が婚姻関係になければ、その子供は未来永劫「非嫡出子」ということになりそうです。しかし、民法は、子供が産まれた後に父母が婚姻することによって、子供に嫡出子の身分を取得することになります。これを「準正」といいます。準正の効果は、婚姻した時から発生します。また父母が後に離婚をしたとしても嫡出子が非嫡出子になることはありません。
したがって、非嫡出子とはいつでも嫡出子に変わりうるのであって、一度嫡出子になったら、非嫡出子に戻ることはありません。産まれてからずっと非嫡出子という場合とは、父母がこれまでもこれからも法律上の結婚をしない2人である場合のみということです。

非嫡出子は、誰の戸籍にはいる?

では、産まれたときにお父さんとお母さんが婚姻関係にない非嫡出子は誰の戸籍にはいるのでしょうか。
 嫡出子は、父親の戸籍に入りますが、非嫡出子は母親の戸籍に入ることになります。そして、何もしない限り、非嫡出子は戸籍上誰が父親か明らかではない状態になっています。

戸籍上「父子関係」を生じさせるには?

 男性がいくら「オレの子だー」と叫んでも、非嫡出子の戸籍上の父親にはなれません。非嫡出子の戸籍上の父親になるためには、「認知」か「養子縁組」のいずれかの方法が必要になります。

「認知」の効果

認知によって、法律上の父子関係が生じます。子供の戸籍には非嫡出子のお父さんとして記載がされることになります。ただし、子供はお母さんの戸籍にはいったままです。

「養子縁組」の効果

 一方、養子縁組をすると認知と同様に法律上の父子関係が発生するのですが、認知とは異なり、子供はお母さんの戸籍を抜けて、お父さんの戸籍に移動することになります(民法810条)。また養子縁組をされて子供は、養子縁組の日から嫡出子の身分を取得することになります(民法809条)

「認知」と「養子縁組」の共通点

 認知あるいは養子縁組によって、非嫡出子と父親との間には法的な親子関係が生じます。
 これによって、父子の間に扶養義務が生じるので、養育費の請求をしたり、あるいは相続権を獲得できたりします。

認知と養子縁組どっちがいいの?

ここまで見た限りでは、認知と養子縁組で大きな違いは、戸籍の移動の有無と、嫡出子となるか否かの違いということになります。では、この嫡出子か非嫡出子かの違いは効果としてどのような違いを生じさせるのでしょうか。
 実は、平成25年12月に民法が改正されるまでの間、民法900条4号但書前段では非嫡出子の相続分が嫡出子の半分になると規定されていました。つまり、嫡出子か非嫡出子かで大きな違いがあったのです。しかし、平成25年9月4日に最高裁大法廷が開かれ、非嫡出子の相続分は嫡出子の半分だと規定している民法900条4号但書前段は憲法違反であるされ、これをうけて平成25年12月に民法改正によって、同条文の該当箇所が削除されたのです。
 これによって、嫡出子と非嫡出子との間に実質的な違いは無くなりました。

嫡出子と非嫡出子の相続割合の裁判(最高裁大法廷平成25年9月4日判決)

かつて民法では嫡出子と非嫡出子との間で相続の割合が異なっていました。
民法900条4号は以下のように定められていたのです。
子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
この但書前段、つまり「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、」の部分が憲法14条の平等権に反して違憲無効になるのではないかと争われました。
 実は同じ内容の裁判は過去にも行われていたのですが、過去の裁判では違憲だという判断はしてきませんでした。
 しかし、規定の合理性は時代とともに変遷するものであるとして、日本の家族形態の変遷などに言及しながら、個人の尊重という観点から法律婚という制度の下で父母が婚姻関係にないという子にとって自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由として子に不利益を及ぼすことが許されないこと、子を個人として尊重し、権利を保障すべきという考えが確立されていることなどを根拠にして、平成25年に違憲だという判決をくだしました。
 それにともない、民法900条4号前段但書の該当箇所が綺麗に削除され、現在では次のとおりになっています。
 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
この判例によって、嫡出子と非嫡出子との間での相続という面での差がなくなりました。

「養子縁組」はもう意味ない?

養子縁組をすれば嫡出子の身分になれるので遺産相続を考えて、養子縁組の手続をしていた人もいたようですが、上記のとおり嫡出子と非嫡出子との間で相続分の相違がなくなったために、いまでは、非嫡出子と養子縁組をする意味はほとんどありません。
 むしろ、養子縁組をすることによって子供は母親の戸籍を抜けて、父親の戸籍に移動することになるので、父親の名字を名乗ることになり、また子の親権も父親側に渡ってしまいます(民法818条2項)。
 そうなると、非嫡出子との間の父子関係発生のためには、認知手続を行えばすむのであって、わざわざ養子縁組をするメリットはないと思われます。

お母さんによる子供の監護が著しく困難または不適当な場合には…??
上記のように、基本的には非嫡出子との養子縁組はほとんど意味がないように思えますが、例えばお母さんが子供に精神的・身体的な虐待をしている場合など、母による子供の監護が著しく困難あるいは不適当である場合には、お父さんとその配偶者の間で「特別養子縁組」を検討してもいいかもしれません。

特別養子縁組とは、6歳未満の子を基本的に養親との親子関係のみにし、実の親子関係を解消する特別な養子縁組の制度です。母親との法律上の親子関係を終了させることができるので、母親に遺産についての相続権は失いますが、子から親への扶養義務も消滅させることができるという点においては普通養子縁組にはないメリットといえます。 また、母親を子に隠したいという特別な状況にある場合には、戸籍上実の母親が記載されなくなるという点も、普通養子縁組とは異なる特別養子縁組特有の効果といえます。

ちなみに、特別養子縁組の要件は
父親が妻帯者である
父親が原則25歳以上である
子が原則6歳未満でなければならない
と非常に厳格です。
 上記に当てはまらず、かつ母による監護に問題がある場合には、認知をして親権変更調停の申立や、親権の喪失・停止の審判申し立てによって母親の親権や監護権を奪うことができますので、そちらを検討してみてもいいかもしれません。

<まとめ>

原則として、非嫡出子に対して養子縁組をするメリットはありません。嫡出子という身分にこだわる等出ない限りは、認知手続を利用すれば足りると思います。
仮に、お母さんの親権に問題があったとしても、認知をした上で、親権変更調停の申立や、親権の喪失・停止の審判申し立てをすれば、十分お子さんを保護することができます。

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